AI for science特集
未解決問題に、AIは何をしたのか
数学では歴史的な予想が反証され、ミレニアム懸賞問題にAI生成の証明が出ました。物理では教科書の「0」が覆り、生物ではAIが設計したタンパク質が実験で結合しました。数学・物理・生物の3分野で、AIの実績と限界、そして数学界の反発までを一次情報で整理します。2026.10.01
2026年、AIは「未解決問題に挑む道具」から「未解決問題を実際に片づける主体」へと立場を変えました。5月にはエルデシュの単位距離予想が反証され、9月にはミレニアム懸賞問題のナビエ–ストークス問題に、AIが生成した証明が公開されました。確認済み 一方で、数学界からは「答えは出たが、理解は深まっていない」という強い批判も出ています。本特集は、数学・物理・生物の3分野で、AIが未解決問題に対して何をし、何がまだできていないのかを一次情報で整理します。
- 確認済み 論文・公式発表・査読誌・形式証明で確認した事実
- 提供元公称 AI企業自身の発表。外部の検証は未完了
- 第三者検証 外部の研究者・機関が独自に確認・評価したもの
- AIfrontierの見解 編集部の解釈・仮説
1. 全体像:この12か月で何が起きたか
| 時期 | 出来事 | 分野 |
|---|---|---|
| 2026.01 | 20代の2人組がGPT-5.2 Proでエルデシュ問題728を解決。Google DeepMind主導チームは700件の「未解決」を総点検し、4件を解き、忘れられていた既存解を9件発見 | 数学 |
| 2026.02 | GPT-5.2 Proが「1本だけ負のヘリシティを持つグルーオンの樹木振幅は0ではない」ことを示す公式を予想し、内部モデルが証明 | 物理 |
| 2026.03 | Gemini Deep Thinkと木探索の組み合わせで、宇宙ひもが出す重力波スペクトルの積分を厳密に解く | 物理 |
| 2026.05 | OpenAI内部モデルがエルデシュの単位距離予想を反証/DeepMindのエージェントが353件中9件を自律解決(1件数百ドル)/GoogleのCo-ScientistがNature掲載 | 数学・生物 |
| 2026.07 | Fable 5支援でヤコビアン予想に反例が報告される | 数学 |
| 2026.08 | Astra内部版が10件の未解決問題を解決・前進(8/1)/Claudeがリーマンゼータの零点比率の下界を更新(8/10ごろ発表、8/13に論文改訂)/Claudeのタンパク質結合体設計が湿式実験で成功(8/18) | 数学・生物 |
| 2026.09 | Anthropicがフェルマーの最終定理を丸ごとLeanで形式化(9/4)/ナビエ–ストークス問題にAI生成の証明(9/8)/フィールズ賞受賞者の共同声明(9/11)/OpenAIが数学諮問グループ設置(9/21) | 数学 |
大きな流れは、「人間がAIを使って解く」段階から、「AIが単独で解き、人間が読み解く」段階への移行です。ただし、成果の大半は検証が速い分野(数学、理論物理の式変形)に集中しており、実験が必要な生物では「設計はAI、確認は湿式実験」という分業が続いています。
2. 数学①:エルデシュ問題という「実験場」
AIの数学的成果の多くは、20世紀の数学者ポール・エルデシュが残した問題群から生まれました。英国の数学者トーマス・ブルーム氏が2023年に個人用として作ったデータベースerdosproblems.comが、2025年8月にコメント欄を設けたことで共同研究の場となり、やがてAI企業の非公式なベンチマークになりました。 出典:Quanta Magazine
| 主体 | 成果 | 区分 |
|---|---|---|
| ケビン・バレット氏とリアム・プライス氏(20代) | GPT-5.2 Proで問題728を解決(2026年1月4日)。証明の論理はHarmonic社のAristotleで確認。ただし最初に「解いた」と投稿した問題333は、1977年にエルデシュ自身が解いていたことが判明 | 第三者検証 |
| 同上+テレンス・タオ氏ら | 問題1196(原始集合の大きさ)を解決する共著論文(2026年5月) | 確認済み |
| Google DeepMind(24人) | Geminiで「未解決」700件を点検。4件を解決し、忘れられていた既存の解を9件発見(1月) | 確認済み |
| Google DeepMind(21人) | 最も高性能なエージェントが、形式化済みの未解決353件のうち9件を自律解決。1件あたり数百ドル(5月) | 提供元公称 |
この段階で既に、成果の質を左右するのは「先行研究の調査」と「人間による検証」でした。ブルーム氏は「AIに証明を書かせ、AIに確認させ、AIに論文を書かせた100〜200ページの論文が増えているが、誰も読んでいないし、誰も読まないだろう」と懸念を述べています。 出典:Quanta Magazine
3. 数学②:「歴史的に重要な証明」の段階へ
単位距離予想の反証(5月20日)確認済み
平面上にn個の点を置いたとき、距離がちょうど1の点の組は最大いくつ作れるか。エルデシュが1946年に提起し、「正方格子に近い配置がほぼ最適」と信じられてきた問題です。OpenAIの内部モデルは、この予想を反証しました。数学向けに特化した仕組みではなく、汎用の推論モデルが、代数的整数論(類体塔、ゴロド–シャファレビッチ理論)を幾何の問題に持ち込んだ点が驚きを呼びました。プリンストン大のウィル・ソーウィン氏は、改善の指数をδ=0.014と具体化しています。 出典:OpenAI
「もし人間がこの論文を書いてAnnals of Mathematicsに投稿し、私が手短な意見を求められたら、迷わず採択を推薦しただろう。これに近づいたAI生成の証明は、これまでなかった」――ティム・ガワーズ氏(フィールズ賞受賞者) 出典:Quanta Magazine
Astra内部版による10件(8月1日)提供元公称
OpenAIは、次期主力モデルAstraの内部版が、長年の未解決問題10件を解決または大きく前進させたと発表しました。発見に使ったトークンはSolのAPI料金換算で約2,000ドル。各証明はモデル自身がLeanで形式化し、GitHubで公開しています。 出典:OpenAI
| 分野 | 内容 |
|---|---|
| 高次元の球充填 | 密度の新しい上界 |
| 符号理論 | 2値符号・球面符号の最大サイズの上界を指数的に改善 |
| 群論 | 非ソフィック群の存在を構成 |
| 作用素環 | コンヌの剛性予想を反証 |
| 計算量理論 | パーマネント計算の算術回路・算術式の下界(n⁴/log n) |
| 量子計算量 | 2人量子ゲームの指数的並列反復定理 |
| 格子暗号 | 最近ベクトル問題の多項式倍近似の困難性(耐量子暗号に関係) |
| 凸幾何 | エルハートの体積予想を全次元で決定 |
| ラムゼー理論 | 多色三角形ラムゼー数の超指数的下界(エルデシュ問題183) |
| 極値グラフ理論 | コンパクト性・退化予想(エルデシュ問題146・180) |
OpenAIは「完全にAIが生成した証明を人間の著作とするのは、システムの貢献も人間の知的労働も偽ることになる」として、数学的な議論はシステムが生成したと明記し、正しさの責任は自社が負うとしています。
リーマンゼータ関数の零点(8月)第三者検証
Anthropicの未公開研究版Claudeは、リーマン予想を満たす零点(臨界線上の零点)の割合の下界を41.6%から67.2%に引き上げました。社内の数学者2人が検証して専門家向けの要約を作成し、Claudeが作ったLean証明も公開されています(8月13日に論文の改訂版へ更新)。分野の専門家ブライアン・コンリー氏とダン・ゴールドストン氏が論文を確認しました。ただしAnthropic自身が「この手法がリーマン予想の証明につながるとは考えていない」と明記しています。 出典:Anthropic
フェルマーの最終定理の完全形式化(9月4日)第三者検証
Anthropicの内部モデルが、フェルマーの最終定理の証明をLeanで端から端まで形式化しました。Anthropicによれば、Claudeがほぼ自律的に11日間で約1,300万行のLeanコードを書き、2万9,500の中間定理を証明しました。 出典:Anthropic 同じ目標に取り組んでいたケビン・バザード氏(インペリアル・カレッジ)が自らコンパイルし、検証ツールで確認しました。バザード氏は「数学的にはほぼ何も教えてくれない(証明が正しいことは既に確信されていた)」としつつ、数千ページの文献を自動で形式化できることが示された意義は大きいと評価しています。 出典:Xena Project
4. 数学③:ナビエ–ストークス問題――解決と「抜け穴」論争
OpenAIの発表確認済み
9月8日、OpenAIは内部システムが、流体の方程式であるナビエ–ストークス方程式について、滑らかに始まった流れが有限時間で特異点(速度が無限大)に達しうることを証明したと発表しました。クレイ数学研究所の公式問題文が認める4つの選択肢のうち、外力ありで破綻を示す「C(とD)」を満たすとしています。 出典:OpenAI
| 項目 | 公表内容 |
|---|---|
| モデル | 8月28日に学習を始めた内部モデル(GPT-6 Astraより大幅に高性能)。途中でさらに学習の進んだ版に差し替え |
| 体制 | 約1万体のエージェントが同時稼働。キャッシュしたインターネットの読み取りとコード実行が可能 |
| 経緯 | 先に約100体・約50時間で外力なしのオイラー方程式の破綻を証明。それを手がかりにナビエ–ストークスへ資源を集中 |
| 所要時間 | 約88時間で到達(9月5日)、Lean形式化と検証にGPT-6 Astraで約17時間 |
| 規模 | ナビエ–ストークスだけで270万メッセージ・約1,300億出力トークン(全問題では490万・約3,000億) |
| 成果物 | 166ページの論文とLean形式化。賞金は請求しない方針 |
先取権をめぐる論争第三者検証
発表の約12時間前、ニューヨーク大のトリスタン・バックマスター氏が、Anthropic所属の数学者レヴェント・アルペゲ氏と共に、外力ありのオイラー方程式などでの破綻を証明していたと公表しました(8月15日に得て、1週間後にLeanで検証)。2人は研究にOpenAIのCodexも使っており、OpenAIが彼らの進展の噂を受けて9月1日に取り組みを始めたこと、Codexの利用データが学習に使われた可能性をOpenAIが当初「排除できない」としていたことが論争になりました。OpenAIは後に、発表前2か月のプロンプトは影響しえないと調査結果を示し、さらに9月13日には「7月3日以降の利用者の入力は影響しえない」と述べています。 出典:Wikipedia(各報道の集約)
テレンス・タオ氏は2人の成果を「驚くべき達成」と評価しつつ、AI企業が論文ではなくプレスリリースで数学の成果を発表することに不満を示しました。2人の手法の土台を作ったスペインのディエゴ・コルドバ氏は「我々の研究がなければ、AIはこの問題を解けなかった」と述べています。
「正しい問題を解いたのか」という第二の論争第三者検証
証明の正しさについては、Leanのコードがコンパイルできたことから、ほぼ合意があります。争点は意味です。OpenAIの構成は、きわめて特殊に作り込んだ外力を使って破綻を起こしています。9月17日にはヴラド・ヴィコル氏らが、OpenAIの構成の特徴を持つ解は、外力が特異点の近くで消えたり実解析的だったりすると正則になる(破綻しない)ことを証明しました。つまりこの手法を延長しても、外力なしの本来の問題には届かないことになります。 出典:arXiv:2609.20803
「クレイの問題は決着したが、ナビエ–ストークス方程式の主要な問題は解かれていない」――ルイス・シルベストル氏(シカゴ大) 出典:Scientific American
論文の読みにくさも指摘されています。オックスフォード大のジェームズ・メイナード氏は「この証明から人間の理解を引き出すのは非常に難しい」、ブラウン大のハビエル・ゴメス=セラーノ氏は「人間向けに書かれていない。現時点では多くを教えてくれない」と述べました。 出典:NPR クレイ数学研究所は9月11日に「問題は決着したとみられる」としつつ、査読付き出版を条件とし、検証と功績の帰属は「意図的に急がない」との立場で、公式サイト上の状態は「Active(検討中)」です。
5. 物理:「複雑な式を単純にする」AI
グルーオン散乱振幅(2月)第三者検証
強い力を運ぶ粒子グルーオンで、「1本だけ負のヘリシティ、残りが正」という配置の樹木レベル振幅は、教科書的には0とされてきました。IAS・ケンブリッジ大・ハーバード大の物理学者とOpenAIの共著論文は、運動量が特殊に揃う「半共線領域」では0にならないことを示しました。人間がn=6まで手計算した複雑な式をGPT-5.2 Proが大幅に簡約し、全nで成り立つ公式を予想。内部モデルが約12時間で同じ公式を導いて証明し、人間が標準的な漸化式と軟定理で確認しました。重力子への拡張も進んでいます。 出典:OpenAI
「単純な公式を見つける作業は常に厄介で、コンピュータで自動化できるのではないかと長く感じていた」――ニマ・アルカニ=ハメド氏(IAS) 出典:OpenAI
宇宙ひもの重力波(3月)確認済み
マイケル・ブレナー氏らは、Gemini Deep Thinkに木探索と数値フィードバックを組み合わせたシステムで、宇宙ひもが放つ重力波のパワースペクトルの積分を、任意のループ形状について厳密に解析的に求めました。以前のAI支援では漸近解しか得られていなかった問題で、システムは6通りの解法を見つけています。 出典:arXiv:2603.04735
統計力学の古い問題(2025年)第三者検証
ブルックヘブン国立研究所のウェイグオ・イン氏は、2025年にOpenAIの推論モデルo3-mini-highと共に、3方向のスピンでさえ解かれていなかった1次元フラストレート・ポッツ模型を解き、Physical Review Bに発表しました。イン氏はまず未発表の自分の論文を与え、AIが自力で同値でより簡潔な式を導いたことを確かめてから共同研究に進んでいます。 出典:ブルックヘブン国立研究所
6. 生物・化学:設計はAI、決着は湿式実験
生物では、数学のように「証明が通れば終わり」とはいきません。最終的な判定は実験です。そのため成果は「AIが設計・仮説を出し、外部の実験室が確認した」という形で報告されています。
Claudeによるタンパク質結合体の自律設計(8月18日)第三者検証
Anthropicは、Claude(Mythos PreviewとOpus 4.8)に15の標的タンパク質に対する結合体を設計させました。人間は最初のプロンプトとアクセス承認以外に関与せず、Claudeが既存の設計・折りたたみモデルを組み合わせて作業しました。外部のAdaptyv BioとTwist Bioscienceが合成・測定した結果は次のとおりです。 出典:Anthropic
| 指標 | 結果 |
|---|---|
| 標的 | 15中14で結合体を得た(1,320設計から354個の結合体) |
| 成功率(ヒット率) | 22.6〜35.1%(設定による)。現在の一般的な設計では10〜15% |
| 難標的TNF | Opus 4.8が成功し、ヒト・カニクイザル・マウスに交差結合する設計も。Mythos Previewは失敗 |
| 失敗例 | マルトース結合タンパク質(MBP)は90設計すべてで結合を確認できず |
同時に、Opus 5がNMRとLC-MSの生データを約20分で解析し、受託ラボの純度96.33%に対して96.4%と一致させた例も報告されています。Anthropicは、こうした能力は生物兵器にも転用できる「デュアルユース」だとして、一般提供のFable 5ではタンパク質設計を利用不可にしています。また9月には、ベイエリアに湿式実験室を設けたことを同社の生命科学責任者が認めました。 出典:Reuters
Google Co-Scientist(Nature、5月19日)第三者検証
Geminiベースの複数エージェントが仮説を生成・討論・改良するCo-Scientistは、3つの生物医学領域で実験検証まで行った成果をNatureに発表しました。 出典:Nature
- 急性骨髄性白血病(AML):既存薬の転用候補を提案し、臨床的に意味のある濃度で選択的な細胞毒性を確認
- 肝線維症:新しいエピジェネティクス標的を提案し、ヒト肝オルガノイドで抗線維化作用と肝細胞再生を確認(FDA承認薬ボリノスタットを含む)
- 薬剤耐性菌:ファージ由来の遺伝要素が宿主範囲を広げる仕組みについて、研究者の未発表の実験結果と同じ仮説を独自に提示
論文自身が、オープンアクセス文献への依存(有料論文や否定的な結果が欠ける)、誤った研究の再生産、試験管内の結果が生体で通用する保証がないことを限界として挙げています。
周辺の動き
- GPT-Rosalind(OpenAI):生命科学向けモデル。9月11日の更新で医薬化学・ゲノミクスを強化。審査を通った研究機関のみが利用できる 出典:OpenAI 提供元公称
- 製薬企業の非公開データ:製薬会社提供の2万超のタンパク質構造で学習したAIが、公開データのみのAlphaFold系モデルを上回ったとNatureが報道(9月14日) 出典:Nature
- Virtual Cell Challenge 2026(Arc Institute):摂動を見たことのない6種の細胞株で遺伝子ノックダウンの応答を予測する競技。最終提出は11月5日、賞金は最大10万ドル 出典:Arc Institute
7. 批判と制度:数学界はどう応じたか
9月11日、テレンス・タオ氏、ピーター・ショルツェ氏、マリナ・ヴィアゾフスカ氏らフィールズ賞受賞者28人(当初25人)が共同声明「数学におけるAIの深刻なミスアラインメント」を出しました。 出典:mathandai.org
「問題を解くことは、概念的な理解と洞察という主目的のための道具であり代理指標にすぎない。AIの世界でそれを忘れれば、道具が主目的に牙をむきかねない」(声明より、編集部訳)
声明は、成果が急いで発表されて丁寧な執筆や先行研究の引用がおろそかになること、帰属と剽窃の問題、そして人から人への知の継承が失われる危険を挙げています。これを受けてOpenAIは9月21日、ガワーズ氏、ハイラー氏、ウィッテン氏らによる独立した数学諮問グループ(無報酬で、助言を公開できる)を設けました。ただし同グループはOpenAIの研究ペースについては助言しないと明記されています。同じ発表でOpenAIは、内部モデルが「100を超える長年の未解決問題を解決した」と述べましたが、問題の一覧も証明も公開していません。 出典:OpenAI 提供元公称
8. 何が見えてきたかAIfrontierの見解
| 観点 | 現状 |
|---|---|
| AIが強いところ | 明示的な構成・反例の発見(単位距離、ヤコビアン、ナビエ–ストークスの破綻)、複雑な式の簡約と一般化(グルーオン)、大規模な形式化(フェルマー) |
| AIがまだ弱いところ | 「起こりえない」ことを示す新理論の構築。研究者自身が「LLMは非常に明示的なものを作るのは得意だが、新しい理論づくりは今のところ苦手」と指摘 |
| 検証の担い手 | 数学はLean(形式証明)が事実上の標準に。生物は外部の実験室。いずれも人間の読解と意味づけは追いついていない |
| コスト構造 | エルデシュ問題は1件数百ドル、Astraの10件は約2,000ドル。一方ナビエ–ストークスは計算費だけで数百万ドル規模と報じられる |
| 未解決の論点 | 功績の帰属、未発表研究とAI利用データの扱い、プレスリリース先行の発表、「問題文の抜け穴」を解いた成果の評価 |
2026年は、AIが未解決問題を解けることが疑いようのなくなった年です。しかし、ナビエ–ストークスが示したように、「解けた」と「理解できた」の間には大きな距離があります。今後の焦点は、AIがどれだけ多くの問題を片づけるかではなく、その答えを人間が使える知識へ翻訳する仕組み――読める論文、先行研究の引用、未発表研究の保護、そして実験による検証――を誰が担うかに移っています。研究開発でAIを使う企業にとっても、未発表のデータをどのAIに入力するかは、すでに実務上の論点です。
出典
- OpenAI「The unit distance problem」(5/20) https://openai.com/index/model-disproves-discrete-geometry-conjecture/
- OpenAI「Ten advances in mathematics and theoretical computer science」(8/1) https://openai.com/index/ten-advances-in-mathematics/
- OpenAI「On the Navier–Stokes Millennium Prize Problem」(9/8) https://openai.com/index/navier-stokes-solution/
- OpenAI「Advisory Group on Mathematics and Artificial Intelligence」(9/21) https://openai.com/index/advisory-group-on-mathematics-and-ai/
- OpenAI「GPT-5.2 derives a new result in theoretical physics」 https://openai.com/index/new-result-theoretical-physics/
- OpenAI「Introducing new capabilities to GPT-Rosalind」(9/11) https://openai.com/index/introducing-new-capabilities-to-gpt-rosalind/
- Anthropic「Riemann zeta」研究報告 https://www.anthropic.com/research/riemann-zeta
- Anthropic「Claude accelerates protein design and analytical chemistry」(8/18) https://www.anthropic.com/research/Claude-accelerates-protein-design
- Anthropic「Formalizing Fermat's Last Theorem」 https://www.anthropic.com/research/formalizing-fermats-last-theorem
- Kevin Buzzard「FLT: Anthropic has beaten me to it」(9/4) https://xenaproject.wordpress.com/2026/09/04/flt-anthropic-has-beaten-me-to-it/
- Quanta Magazine「Why the Legendary Erdős Problems Are Falling to AI」(8/3) https://www.quantamagazine.org/why-the-legendary-erdos-problems-are-falling-to-ai-20260803/
- Scientific American「Did OpenAI solve the wrong Navier-Stokes problem?」(9/21) https://www.scientificamerican.com/article/did-openai-solve-the-wrong-navier-stokes-problem/
- NPR「AI solved one of math's hardest problems…」(9/22) https://www.npr.org/2026/09/22/nx-s1-5968588/openai-navier-stokes-problem-mathematicians-learn-little
- arXiv:2609.20803(Vicolら、OpenAI構成の限界) https://arxiv.org/abs/2609.20803
- Wikipedia「Navier–Stokes priority controversy」(報道の集約として参照) https://en.wikipedia.org/wiki/Navier%E2%80%93Stokes_priority_controversy
- フィールズ賞受賞者声明「A Severe Misalignment of AI in Mathematics」 https://mathandai.org/
- arXiv:2603.04735(Brennerら、宇宙ひもの重力波) https://arxiv.org/abs/2603.04735
- ブルックヘブン国立研究所(ポッツ模型) https://www.bnl.gov/newsroom/news.php?a=122742
- Nature「Accelerating scientific discovery with Co-Scientist」(5/19) https://www.nature.com/articles/s41586-026-10644-y
- Nature News「Drug firms' secret data supercharge AI protein models」(9/14) https://www.nature.com/articles/d41586-026-02882-x
- Reuters「Anthropic quietly sets up biology lab…」(9/18) https://www.reuters.com/world/anthropic-quietly-sets-up-biology-lab-it-ramps-ai-drug-program-2026-09-18/
- Arc Institute「Virtual Cell Challenge 2026」 https://arcinstitute.org/news/virtual-cell-challenge-2026
※人名・機関名・数値は各出典の記載に基づきます。「解決」はAI企業の発表時の表現で、クレイ数学研究所など外部機関による正式な認定を意味しません。