ASML、過去最高の四半期
AI需要で2027〜28年は供給不足
第3四半期の売上は€117億、純利益€50億。顧客は2029年・2030年分の発注にも関心を示し、2027〜2028年の供給は需要に足りないと会社が明言しました。AI投資の下流にある装置需要を読みます。2026.10.16
ASMLの2026年第3四半期は、売上€117億、粗利率57.5%、純利益€50億と過去最高の四半期になりました。顧客は2029年・2030年分の発注にも関心を示し、会社は2027年と2028年の供給では需要に足りないと明言しています。AI投資の「下流」にあたる装置需要を、一次情報で読みます。
- 確認済み 公式ブログ・GitHub・一次資料で確認した事実
- 提供元公称 開発元・ベンダー自身の発表。第三者検証は未完了
- 第三者検証 外部の開発者・メディア・実測者が独自に確認したもの
- AIfrontierの見解 編集部の解釈
1. 第3四半期の数字確認済み
発表は2026年10月14日(オランダ・フェルトホーフェン)。前四半期との比較は次のとおりです。 出典:ASML
| 項目(単位:百万ユーロ) | 2026年Q2 | 2026年Q3 |
|---|---|---|
| 総売上 | 9,326 | 11,662 |
| うち設置ベース管理売上 | 2,762 | 3,289 |
| 新規リソグラフィ装置の販売台数 | 86 | 113 |
| 中古リソグラフィ装置の販売台数 | 5 | 8 |
| 売上総利益 | 5,035 | 6,700 |
| 粗利率 | 54.0% | 57.5% |
| 純利益 | 2,918 | 4,960 |
| EPS(基本、ユーロ) | 7.59 | 12.95 |
| 期末の現金及び現金同等物・短期投資 | 7,582 | 12,735 |
粗利率が54.0%から57.5%へ上がった主因として、会社は生産性向上のアップグレードに対する需要の強さを挙げています。設置ベース管理売上(サービスと装置オプションの売上)が€33億とガイダンスを上回ったためです。なおこのリリースには、EU市場濫用規制(MAR)第7条1項にいう内部情報が含まれると明記されています。
2. 需要の可視性と、供給制約という逆説確認済み
この四半期で最も情報量が多いのが、CEOクリストフ・フーケ氏のコメントです。
— Christophe Fouquet, President and CEO, ASML
顧客が短期・中長期の装置需要の予測を引き上げ続けており、その主因はAI関連投資の規模と持続期間についての顧客自身の見方だという説明です。そして需要の可視性を踏まえて、一部の顧客は2029年、さらには2030年分の発注に関心を示しています。
— Christophe Fouquet, President and CEO, ASML
受注残のモメンタムが四半期ごとに増すなか、現在計画されている2027年と2028年の供給では顧客の需要を完全には満たせない。そのため、以前に伝えた2028年の30%増を超える能力増強の方法を検討している、という内容です。半導体製造装置はリードタイムが長く、能力増強の判断は数年前に必要になるため、この一文は「需要が数年先まで見えている」ことの裏返しでもあります。
3. 第4四半期と通期の見通し提供元公称
| 項目 | ガイダンス |
|---|---|
| 2026年Q4 総売上 | €142億〜152億 |
| 2026年Q4 粗利率 | 約57% |
| 2026年Q4 研究開発費/販管費 | 約€12億/約€4億 |
| 2026年通期 総売上 | €440億〜450億 |
| 2026年通期 粗利率 | 約56% |
Q4ガイダンスの中央値(€147億)はQ3からさらに増加します。通期で€440〜450億という水準は、四半期ベースの€117億と合わせて、装置需要が一過性ではないことを示しています。
4. 株主還元確認済み
- 第3四半期に、2026〜2028年の自社株買いプログラムの下で約€41億を取得。
- 2026年の中間配当は1株あたり€1.88、支払日は2026年11月4日。
- 会社概要として、従業員は45,500人超、本社はオランダ・フェルトホーフェン、ユーロネクスト・アムステルダムとNASDAQに上場(ティッカーASML)。
5. 決算コールで示された数字第三者検証
決算コール(10月14日)では、四半期の内訳と今後の構造がより具体的に示されました。 出典:The Motley Fool(決算コール全文)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 純システム売上 | €84億(EUV €41億=うちHigh-NA EUV 1台、非EUV €43億) |
| 構成比 | ロジック54%/メモリー46% |
| 純利益€50億の内訳 | Mistral AIへの出資の評価益 約€5億を含む |
| フリーキャッシュフロー | €114億(顧客の前受金を含む) |
| 通期成長率 | 前年比+36%(€440〜450億) |
| メモリー/ロジック | メモリーの純システム売上は通期+75%見込み、ロジックは+10%(先端ロジックは+25%超) |
| low-NA EUVの生産台数 | 2026年に65台(前年44台、ほぼ50%増) |
| 中国向け | 通期で総売上の20% |
| 価格 | 重要製品で値上げを実施済み。寄与は2027年から、フル効果は2028年 |
| 新製品 | NXE:3800F(260枚/時、2027年初に少量導入)、次世代DUV液浸(330枚/時、2027年から)、YieldStar 550B(生産性60%増) |
| High-NA EUV | Q3に1台販売。インテルは100万枚超を露光し、low-NAと同等以上と確認。TSMCと12インチEUVフォトマスクの共同イニシアチブ(2031年にパイロットライン) |
読み筋として重要なのは3点です。①利益の一部は一過性——純利益€50億にはMistral AI出資の評価益約€5億が含まれます。②需要の裾野がメモリーに広がっている——メモリーの純システム売上は通期+75%見込みで、先端DRAMでのEUV採用と能力拡張がdriverとされています。③値上げが2027年から効く——能力増強のコストと重要製品の価格改定が、来年以降の粗利に乗ってきます。
リスクも会社側が明示しています。CFOは、出荷量が増えても「固定費のカバレッジ改善が、ランプアップに伴う追加コストで相殺される」と述べ、CEOは、顧客のクリーンルームが現在は制約になっていないものの、2027〜2028年の建設を顧客が慎重に実行しないと装置の設置が遅れうると警告しています。需要が数年先まで見えていることの裏返しです。
なお、装置の販売台数は新規113台+中古8台=121台です。
6. 見えてきたことAIfrontierの見解
AI投資の議論はモデルの性能とAPI価格に集まりがちですが、この決算はその下流にある実需を示しています。注目すべきは売上そのものより、顧客が2029年・2030年分の発注に関心を示しているという記述です。AI関連の設備投資が数四半期で終わる短期のブームではなく、複数年の設備サイクルとして計画されていることの傍証になります。
同時に、会社自身が「計画済みの供給では2027〜2028年の需要に足りない」と書いている点も重要です。能力増強は数年単位の判断であり、足りない分は価格と納期に跳ね返ります。装置側の制約は、いずれ計算資源の制約として上流のモデル開発に伝わります。
リスクとしては、①輸出規制と地政学(会社も開示資料で挙げている)、②顧客の計画変更・発注の延期や取り消し、③供給チェーンと部材の制約が挙げられます。装置メーカーの受注はモデル発表のニュースより遅行しますが、実需の裏付けとしては最も硬い指標のひとつです。
出典
- ASML「ASML reports €11.7 billion total net sales and €5.0 billion net income in Q3 2026」(2026年10月14日) https://investor.asml.com/news-releases/news-release-details/asml-reports-eu11.7-billion-total-net-sales-and-eu5.0-billion-net-income-q3-2026
- 同リリースに添付されるUS GAAP連結財務諸表(www.asml.com)。貸借対照表日は2026年9月27日、未監査
- The Motley Fool「ASML Q3 2026 earnings call transcript」(2026年10月14日) https://www.fool.com/earnings/call-transcripts/2026/10/14/asml-asml-q3-2026-earnings-call-transcript/